「うちの営業社員が辞めて、競合に転職した」
「顧客リストやノウハウを持ち出されたらどうしよう…」
そんな不安から、「競業禁止条項を就業規則に入れている」「退職時に誓約書を書いてもらっている」という企業も少なくありません。
しかし、実は
就業規則に書いてあるから大丈夫、誓約書にサインしているから効力がある、というのは大きな誤解です。
競業避止義務は、退職後の職業選択の自由を制限するものであり、法的に有効とされるためには、かなり厳しい要件をクリアしなければなりません。
就業規則や誓約書だけでは無効とされる可能性も
競業避止義務は、憲法で保障された「職業選択の自由」とのバランスが問われます。
裁判でもその効力は厳しく判断されており、「会社が決めたから」「規則に書いてあるから」というだけでは通用しません。
経済産業省の「競業避止義務契約に関する調査資料(参考資料5)」では、次の6項目が有効性の判断要素として挙げられています。
- 企業の守るべき利益があるか(顧客情報、営業戦略など)
- 従業員の地位・職務の特殊性(秘密情報へのアクセスがあったか)
- 禁止する地域の範囲が合理的か
- 存続期間の妥当性
- 競業行為の対象範囲が明確で限定的か
- 対価(補償金や高額報酬など)があるか
これらの条件を満たしていない誓約書や規則は、たとえ文書として存在していても、法的に無効と判断される可能性が高いのが実情です。
法的効力は限定的でも、抑止力にはなりうる
それでも、企業として競業リスクに備えた対策を講じておくことには意味があります。
たとえば、競業避止に関する誓約書に署名してもらうことで、仮に法的拘束力に限界があったとしても、本人に対して一定の抑止効果を働かせることができます。
また、情報漏洩や秘密保持違反があった場合に、誓約書があれば証拠やけん制材料として機能する場面もあります。
退職時では関係性が悪化していることも多く、誓約書への署名を拒否されるケースもあります。
そのため、こうした書面は入社時に取得しておくことが、実務上も有効なリスク対策といえます。
実務での整理の仕方
- 就業規則には、全社共通の「秘密保持」条項を明記する
- 競業避止に関しては、リスクの高い職種(営業・開発・幹部等)に限定して個別誓約書を取得する
- 誓約書は退職時ではなく、入社時に取得しておくのが望ましい
- 禁止する内容・期間・対象地域を明確にし、必要に応じて補償を検討する
- 退職時には再確認や注意喚起の機会を設けておく
まとめ:競業避止は、過信せず現実的に向き合う
競業避止義務は、「書いておけば守られる」ものではありません。
むしろ、制度や文面の内容・運用方法によっては、企業側が不利になることすらあります。
制度設計は慎重に、かつ現実的に。
就業規則だけでなく、リスクの高い職務への個別対応や、取得のタイミングも含めて全体設計していくことが大切です。
YES社会保険労務士事務所では、
中小企業が過度な制約にならず、実態に即した競業リスク対策をご提案しています。
「うちのルール、今のままで大丈夫?」
そんな疑問があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
(参考:経済産業省「競業避止義務契約に関する調査資料(参考資料5)」)