「うちは固定残業代を含めた給与体系にしているから、残業代は払っています。」
中小企業の経営者や人事担当の方から、こうした言葉をお聞きすることがあります。
たしかに、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めておく「みなし残業代(固定残業代)」制度は、管理の簡略化にもつながります。
しかし実は、払っているつもりでも、法的には未払いと判断されるリスクがあるケースが少なくありません。
この記事では、よくある誤解や未払いとみなされるポイント、そして企業側がとるべき対策についてわかりやすく解説します。
未払いになる典型パターン
制度として「みなし」を採用していても、実際には次のようなケースで未払いと判断されることがあります。
- 就業規則や雇用契約書に、固定残業代の明確な根拠(対象時間数や金額)が記載されていない
- 給与明細に、「基本給」と「固定残業代」が区別されていない
- 所定の残業時間を超えて労働した際に、追加の残業代を支給していない
たとえば「月給に30時間分の残業代を含む」としていても、就業規則や契約書にそれが明記されておらず、かつ30時間を超える分の残業代も支払われていないと、「みなし制度自体が無効」と判断される可能性があります。
裁判でも争点になるポイント
固定残業代制度は、適切に設計・運用されていなければ、裁判で無効と判断されることがあります。
実際の裁判例では、次のような点が争点になります。
- 雇用契約や就業規則に、その手当がみなし残業代として支給されることが明記されているか
- 給与明細で、基本給とみなし残業代が区分されているか
- みなし時間を超えた労働に、追加の残業代を支給しているか
こうした条件を満たしていなければ、未払いと判断されるリスクが高くなります。
どうすれば?企業側の対策
では、どうすれば法的にも安心してみなし制度を導入・運用できるのでしょうか。
- 雇用契約書や就業規則に、「何時間分の残業代をいくら含んでいるか」を明記する
- 給与明細では、基本給と固定残業代を明確に区分して記載する
- みなし時間を超えて労働があった場合は、超過分を別途支給する
- 勤怠集計の実態(タイムカードや打刻)と、制度上の扱いが食い違っていないか確認する
これらをきちんと整備・運用しておくことで、未払いリスクを大きく減らすことができます。
まとめ:みなし制度は便利、でも“仕組み”が肝心です
みなし残業代制度は、一定の合理性とメリットがある制度です。
ただし、「みなしで払っているから大丈夫」と思い込んでしまうのは危険です。
しっかりとした制度設計と、日々の運用との整合性がなければ、未払いと判断される可能性も十分にあります。
「うちは大丈夫だろうか」と不安な方は、一度制度の見直しや契約書のチェックをしてみることをおすすめします。
YES社会保険労務士事務所では、労務リスクを減らしながら、現実的に回る運用設計をご提案しています。
制度チェックだけでも対応可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。